
ニホンジカ (Cervus nippon) は、東アジアの温帯林に生息するシカ科の動物で、日本列島全域に広く分布しています。
日本だけでも6つの亜種が存在しています。一方で、中国や朝鮮半島の大部分では残念ながら絶滅してしまい、日本列島は世界で唯一、個体数が豊富に存在する地域となっています。
ニホンジカは、ヨーロッパに生息するダマジカとよく似ており、赤褐色の毛皮に白い斑点があるという特徴を共有しています。しかし、実際にはヨーロッパに生息するアカシカに近縁です。また、ニホンジカはアカシカよりも小型で、オスの体高は最大で1メートル30センチほどであるのに対し、アカシカは1メートル50センチに達します。
ニホンジカは主に草食性ですが、その食性は地域や季節によって変化します。草、木の葉、タケ類を食べるほか、冬に厚い積雪で地面が覆われると、樹皮も食べます。
野生では、オスとメスは別々の群れで生活します。メスとその子どもは草原では大きな群れをつくり、森林ではより小規模で機動性の高い群れを形成します。一方、オスは1~2歳になると群れを離れ、単独で生活します。
日本におけるニホンジカの信仰上の位置づけは、時代や文化によって大きく異なります。北方の人々の間では、特別な崇拝は見られず、古くから単なる食料として捉えられてきました。逆に、古代日本では、このシカは神々の使いとされる神聖な動物として長く崇められてきました。現在でも、京都や大阪に近い奈良の神社などで保護されており、そこでの個体群は何世紀にもわたり人間と共存してきました。そのため、1957年には国の天然記念物に指定されています。
長い間崇拝されてきた一方で、1870年代から1940年代にかけて過剰な狩猟が行われ、個体数は急激に減少し、生息域も分断されました。その後、1994年までの数十年間にわたり、特にメスの狩猟を厳しく規制する保護政策が実施されました。日本オオカミの絶滅により天敵がいない中で、ニホンジカの生息域は1945年には国土の10%未満だったものが、2014年には50%以上にまで拡大しました。
現在、ニホンジカの個体数は再び問題となっています。日本の環境省および農林水産省は、急増するニホンジカの個体数が農業や森林に深刻な被害をもたらしていると指摘しています。2022年には農作物被害が65億円(約4,000万ユーロ)に達し、その傾向は増加しています。森林では、若木の芽を食べ、成木の樹皮を剥ぐため、下層植生が壊滅的に減少します。下層植生は土壌保持に重要であり、その喪失は2024年に京都近郊の伊吹山で発生した土砂崩れのような災害につながります。
こうした脅威に対応するため、政府は2013年に「2023年までにニホンジカの個体数を半減させる」という行動計画を策定しました。この計画の一環として、捕獲を支援するために都道府県への補助金が交付されています。
日本国内ではニホンジカの将来が絶滅の危機に瀕しているわけではありませんが、その自然環境や農業生態系への影響は極めて深刻です。天敵が存在しないまま個体数が増加すれば、生態系の均衡が脅かされることになります。